緑内障とは
緑内障とは、眼球内の神経細胞がなんらかの原因で障害され、視野が欠けてくる病気です。
左:正常の視野(右眼)、右:緑内障の視野(右眼)
眼が球の形を維持するにはある程度の内圧が必要です。この、眼球の形を維持するための内圧を「眼圧」といい、10~21mmHgがおおむね正常といわれています。緑内障では年単位でゆっくりと視野障害が進行し、最終的には失明に至ることもあります。40歳以上では20人に1人(5%)の有病率です。自覚症状が出た時には中期に進行していることが多く、早期発見が重要です。眼圧や隅角の形態に応じて正常眼圧緑内障(NTG)、開放隅角緑内障(POAG)、慢性閉塞隅角緑内障(CACG)などに分類されます。急性緑内障は、短時間で高眼圧となり、目のかすみ、眼痛、頭痛、嘔気・嘔吐を伴います。症状が著しく、時には救急車を呼ぶほどです。内科や救急科を受診する事もあります。急性閉塞隅角緑内障(APAC)とも呼ばれ、一般的に高齢女性で遠視がある方に起きやすいとされています。緑内障の中では稀なタイプです。
緑内障の仕組み
眼球には光が通るうえで大切な組織である角膜、水晶体があります。これらの間には房水(ぼうすい)という透明な液体が流れています。房水は虹彩の裏の毛様体で血液から作られ、虹彩と水晶体の隙間を通って前房にいたります。房水は線維柱帯、シュレム管を通って眼外に排出され血管に戻ります。
眼圧は房水の作られる量と隅角から出ていく量のバランスできまります。房水の産生量が多すぎるか、隅角からの排出量が少なすぎると眼圧が上昇します。視神経の眼内への入り口である視神経乳頭に高い圧力がはたらくと神経線維が障害を受けます。神経線維が減ってくるとやがて視野が欠けてきます。これが緑内障の仕組みです。
眼圧によって眼球後部の視神経が圧迫され障害されます。
一方、急性緑内障(急性閉塞隅角緑内障)が起こるときは、瞳孔が広がり水晶体とくっついて房水をせき止めます。すると房水が前房に流れない状態となり、その結果溜まってくる房水が虹彩を前方に押し出して隅角を塞いでしまいます。隅角からの房水排出が止められ著しい高眼圧となります。
このように急性閉塞隅角緑内障は緑内障の中でも特殊なタイプで疾患概念や治療法も大きく異なるため、以下は一般的な緑内障である開放隅角緑内障、正常眼圧緑内障について説明していきます。
緑内障の検査
眼圧の正常値は10mmHgから21mmHgまでとされていますが、人口の95%の人が入る値として定義され、緑内障にならない範囲というわけではありません。未治療時、または治療強化前の眼圧と比較して、治療の効果を判断する短期的な目安と考えられます。
隅角鏡を使って隅角を観察して、開放隅角か閉塞隅角か判断します。
眼底(網膜)には視神経の線維があり、これらは視神経乳頭という部位に集合し眼の外側に出ていきます。視神経乳頭の中央部は陥没しており、このくぼみのことを陥凹(かんおう)と言います。緑内障では視神経が障害されるため、視神経乳頭周囲に様々な変化があらわれます。視神経乳頭の陥凹が広がる視神経乳頭陥凹拡大(カッピング)、視神経乳頭へ連絡する神経線維が障害され、眼底の一部に扇状に暗く抜ける部位が出現する視神経線維層欠損(NFLD)、乳頭周囲に出血する乳頭出血などがあります。進行例では視神経の色調自体が白くなり視神経萎縮の状態となります。人間ドックや会社の検診でこれら眼底の異常を指摘されて眼科を受診し、初めて緑内障が見つかるケースも多いです。
静的視野検査 |
視野内の各位置に視標を光らせて測定する検査で視野障害の進行を敏感に評価できます。緑内障検査で最も大切な検査です。 ハンフリー視野検査の結果結果(黒い部位は視野が欠損あるいは感度低下していることを表す)。 |
動的視野検査 |
患者さんの視野の外から、光の視標を中央に向けて動かして、見えたところを調べます。全体的な視野の評価に使います。 |
静的視野検査 |
視野内の各位置に視標を光らせて測定する検査で視野障害の進行を敏感に評価できます。緑内障検査で最も大切な検査です。 |
動的視野検査 |
患者さんの視野の外から、光の視標を中央に向けて動かして、見えたところを調べます。全体的な視野の評価に使います。 |
OCTの検査結果。視神経の周囲と、網膜の中心部(黄斑部)を通過する神経線維の厚みを測定。正常眼に比べて神経線維が薄くなっている場所が赤色に表示されます。
網膜の厚み、断面を調べる検査で、視神経のまわりや網膜の中心領域を調べます。視野の異常が出現する前の段階で異常を見つけることのできる検査です。視野検査と同様緑内障診断にはなくてはならない検査です。
緑内障の種類
原因となる他の疾患が見当たらず、隅角が開いていて眼圧が正常域より高い開放隅角緑内障(POAG)と眼圧は正常域にもかかわらず視神経障害が進行する正常眼圧緑内障(NTG)があります。日本人の7割は後者の正常眼圧緑内障と言われています。もともと眼圧が低くても視野障害が進行するため、眼圧以外の要素(脳脊髄圧やもともとの神経の脆弱性など)も複雑に関係していると考えられています。後述の通り、緑内障の進行予防に効果がある治療はいまのところ眼圧を下降させることです。
他の要因がなく、隅角閉塞が起こり眼圧上昇、視神経障害をきたしている緑内障です。慢性に経過する閉塞隅角緑内障(PACG)と、急性閉塞隅角緑内障(APAC)があります。抗コリン薬や睡眠薬の一部には閉塞を隅角させる副作用の薬があるため注意が必要です。
副腎皮質ステロイド薬(点眼薬、内服薬)、落屑物質、ぶどう膜炎、外傷などが原因となり2次的におこる緑内障です。
生まれつきの眼球の発達異常によって小児の頃からおこる緑内障です。
緑内障の症状
緑内障の視野障害は中期に進行するまで自覚することはほとんどありません。これが緑内障の恐ろしい点です。初期は中央の上下が感度低下したり、鼻側から欠けてくることが多いですが、この段階で自覚する人は少ないです。徐々に進行していき、最終的には中央と耳側が残ることが多く、その部分も消失すると完全に光を失ってしまいます。眼圧が極端に高い場合は、日中のかすみ、視力低下や鈍痛を自覚する場合がありますが、前述の通り日本人の7割は正常眼圧緑内障のため、このような自覚症状が出る方は非常に稀です。
緑内障の治療
緑内障では通常、視野障害は年単位〜十年単位で非常にゆっくりと進行するため、一生涯に渡って治療を続ける必要があります。視野障害の進行を抑えることがはっきりと分かっている唯一の方法は、眼圧を下げることです。無治療で5~6年経過すると80%が悪化するのに対して、眼圧を30%下げることにより、大部分の患者さんの視野障害の進行を防ぐことができます。眼圧を下げる方法には、点眼治療、レーザー治療、手術療法があります。
点眼治療
入院期間は手術方法により異なります。
キサラタン、トラバタンズ、タプロス、ルミガンなど。
- 世界的に緑内障治療の第一選択の薬剤。
- 薬が目の縁やまぶたに残ると、睫毛が濃くなる、まぶたが黒ずむ、眉毛の下がくぼむなど眼の周囲に限定した副作用が生じます。
- 点眼後5分以上経ったら、洗顔してまぶたに付着した点眼薬を洗い流してください(風呂に入れば顔を洗うので、入浴前の点眼がおすすめです)。
チモプトール、ミケラン、ハイパジール、ミロルなど。
- 交感神経のβ受容体を遮断することにより、眼圧を下げる目薬です。
- 点眼薬はごく微量が全身に吸収され、全身の交感神経が少しだけブロックされます。健康な人で問題になることはほとんどありませんが、心臓と肺に持病を持つ人では注意が必要です。該当する方は申し出てください。
トルソプト、エイゾプトなど。
- 角膜に染み込んだ水を眼内に戻す働きをしている角膜内皮細胞の働きを弱める可能性があります。
- 特に起床時には角膜がむくみやすく、目がかすむことがあります。
アイファガン
- 交感神経のα2受容体を刺激する薬剤です。
- 眠気が出ることがあるので運転時などで注意が必要です。
- アレルギーが生じることがあります(充血、眼脂、痒みや異物感、まぶたの発赤や腫脹など)。数ヶ月〜数年後に発症する場合もあります。
グラナテック
- 薬剤の作用により、点眼後数時間充血を生じます(これは副作用ではありません)。
- 線維柱帯─シュレム管を介する主流出路からの房水流出を促進させ、眼圧を下降させます。
レーザー治療
当院では硝子体手術、網膜復位術ともに初回手術で95%以上の復位率を収めています。
線維柱帯の色素細胞のみを選択的に障害し、房水の排出抵抗を下げて眼圧を下降させます。周囲の線維柱帯組織や無色素細胞には影響を及ぼすことがないため、合併症の心配がなく、繰り返し行うことができる安全な治療法です。外来診察時に点眼麻酔で行うことが可能で、治療時間は5分程度です。近年、初回からSLTを行うことで緑内障の点眼本数を減らすことが出来るという論文報告も多数されており、再注目されている治療法です。
マイクロパルスとはレーザーを超短時間(マイクロ秒)でオン・オフしながら発振する装置で、組織への侵襲が非常に少ないと考えられています。レーザーで毛様体を刺激することにより房水の眼外への流出を促進し、眼圧を降下させます。毛様体を凝固してしまう従来の方法と比べ合併症が少なく、繰り返しの治療も可能です。外来通院で治療が可能です。点眼麻酔のみでは痛みが出るため、白目(結膜)を切って白目の後ろに麻酔(テノン嚢下麻酔)を入れて治療を行います。所要時間は10分程度です。
手術治療
緑内障には様々な手術療法がありますが、大きく分けると流出路再建術と濾過手術に分けられます。
流出路再建術(線維柱帯切開術) | 濾過手術(線維柱帯切除術) | |
目標眼圧 | 15mmHg前後 | 10mmHg前後 |
主な適応 | 発達緑内障若年性緑内障ステロイド緑内障 | より低い目標眼圧症例薬剤治療抵抗性 |
短期合併症 | 前房出血 | 脈絡膜剥離低眼圧 |
長期合併症 | なし | 白内障濾過胞感染(眼内炎) |
流出路再建術(線維柱帯切開術) |
目標眼圧 15mmHg前後 |
主な適応 発達緑内障若年性緑内障ステロイド緑内障 |
短期合併症 前房出血 |
長期合併症 なし |
濾過手術(線維柱帯切除術) |
目標眼圧 10mmHg前後 |
主な適応 より低い目標眼圧症例薬剤治療抵抗性 |
短期合併症 脈絡膜剥離低眼圧 |
長期合併症 白内障濾過胞感染(眼内炎) |
線維柱帯からシュレム管への流出抵抗を軽減するために行われ、線維柱帯を切開する線維柱帯切開術が主な術式です。当院ではカフークデュアルブレードや谷戸式マイクロフックを用いた低侵襲の線維柱帯切開術を行っています。術後の一過性の前房出血など術直後の合併症以外は少なく安全性の高い手術ですが、術後眼圧は15mmHgを下回る程度で、これ以下の目標眼圧が必要な場合には治療の限界で、後述の濾過胞再建術が選択されます。
白目(結膜)の下に房水の流出路(バイパス)を作成し濾過胞を形成し、そこから周囲に房水を流すことで眼圧を下げる手術で代表術式は線維柱帯切除術です。
緑内障では最も一般的な手術療法で、緑内障手術といえば線維柱帯切除術のことを指すことが多いですが、術後短期・長期ともに合併症が多く、眼圧が高い末期症例や眼圧が低いにもかかわらず進行する症例で主に行われています。手術自体は30分程度です。手術の成功は術後管理にかかっていると言われているほど、術後のきめ細かな管理が必要です。術後眼圧が変動しやすいため、それぞれの病態に応じて適切な処置を速やかに行う必要があります。当院では1週間程度の入院加療を勧めています。